『ブラザー 富都(プドゥ)のふたり』感想ベスト3:クアラルンプールの影と光

ブラザー 富都(プドゥ)のふたり

ナカデミー賞にノミネートおめでとうございます。
池袋シネ・リーブルで『ブラザー 富都(プドゥ)のふたり』を鑑賞。世界各国の映画祭で評価され、金馬奨ではウー・カンレンが主演男優賞を受賞したマレーシア・台湾合作映画だ。

舞台はクアラルンプールのプドゥ地区。不法滞在者たちが集まる古いマンションで、身分証明を持たない兄弟、アバンとアディは支え合って生きている。兄アバンはろう者で、市場の日雇い仕事をしながら堅実に暮らしているが、弟アディは裏社会と関わり、危険な世界に足を踏み入れている。そんな中、アディの実父の所在が判明し、身分証明書が手に入る可能性が出るが、ある事件をきっかけに兄弟の未来は大きく揺らいでいく。

監督は本作が長編デビューとなるジン・オング。リアルな東南アジアの社会問題を描きつつ、兄弟の絆を軸にした骨太なドラマだった。

印象に残ったポイントをランキング形式でまとめる。

第3位:お話が悲しすぎる

映画としての完成度は高いが、とにかく救いのない展開が重くのしかかる。不法滞在者として生きる兄弟にとって、人生は常に不安定で、わずかな希望さえも簡単に崩れてしまう。後半の展開は特に厳しく、観終わった後も余韻が抜けない。こういう社会の現実を描く以上、避けられない部分ではあるが、それにしても切なすぎた。

第2位:東南アジアの”香り”がする映画

こういう映画、大好きだ。東南アジアの熱気や湿気、雑然とした街の雰囲気がスクリーンから伝わってくる。クアラルンプールには行ったことがあるが、この映画に観光地は一切出てこない。映し出されるのは、不法滞在者が暮らす古びたマンションや、ローカルな市場、屋台などのリアルな風景ばかり。その街のにおいや空気感が、まるでそこにいるかのように感じられる。旅人として、こういう”土地のリアル”を感じられる映画には強く惹かれる。

第1位:まさかのアンジェリカ・リー製作!

映画を観るまで知らなかったが、この作品のプロデューサーにアンジェリカ・リーの名前が!『the EYE』のアンジェリカ・リー!歌手時代から知っていて、CDも持っているくらい好きだった。彼女が社会派映画の製作に関わっているとは思わなかったので、これは嬉しい驚き。ホラー映画のヒロインとしてのイメージが強かったけど、こういう作品の裏側にいるのを知って、さらに尊敬が増した。

まとめ

『ブラザー 富都(プドゥ)のふたり』は、東南アジアの社会の影をリアルに描いた力強い作品。悲しさも重さもあるが、それ以上に記憶に残る映画だった。アンジェリカ・リーの関与を知って、個人的にはさらに特別な一本になった。